前回は「アーイ引越センター」(類似商号)を紹介しましたが、今回は、0123で有名な「アート引越センター」(本物)のお話をします。
1. 本当のニーズを掴む
アート引越センターは、寺田運輸から分離独立する形で設立されました。分離独立する前に、寺田寿男(寺田運輸社長)は、次のような貴重な体験をしました。
主婦がどうして寺田運輸を指名してくれたのか、興味を持って尋ねてみた。すると意外な答えが返ってきた。
「引っ越しいうたら大手の運送業者もあるのに、どうして当社に電話してくれはったんですか?」
「お宅の引っ越しトラックはコンテナ付きでしょ。あれがいいのよ。いったい誰があんなうまいことを考えつかはったん?」
「コンテナを評価してくれはったんですか。(略)コンテナに荷物を詰め込んだら、紐でくくることも必要ないし、雨の日も濡れないでしょう。」
「いいえ、そんな意味で頼んだんと違うんですよ。さっきも見てもろおたように、わが家はガラクタばっかりでしょ。あれをトラックに積んだら、近所の人に丸見えでかっこ悪いじゃないですか。その点、お宅のトラックやったら誰にも見られずに引っ越しが済みます。せやからお宅にしたんです。」
それを聞いて、寿男ははっとした。
「荷物をくくらんでもええ、雨の日も濡れへんというのは、こっちが勝手に考えた理屈やけど、お客さんのほんとうのニーズは、こうして現場を回ってみないと、わからんもんや」と、つくづく思った。
以来、寿男は引っ越し荷物の見積もりに行くたびに、お客さんのニーズを尋ねてみるようになる。(「アート引越センター 全員野球の経営」より)
2. 思わず始めた家電販売
こうして、アート引越センターはお客さんのニーズを聞き出すことから、新しい商売のネタを次々と発見していきました。
例えば、アート引越しセンターでは、冷蔵庫や掃除機など家電製品販売も積極的に行っています。このビジネスも思いかけず始めたものでした。
寿男が引っ越しの見積もりや荷物の搬出、搬入の現場に赴くときには、 いつも 「お客さんの困ったことをサービスにしてやろう」という意識で臨んだ。
あるとき、引っ越し荷物のうち古くなった冷蔵庫の処分を依頼された。
「奥さん、この冷蔵庫は未だ使えますけど。捨てはるんですか。新居ではどうしはるんです?」
「そりゃ当然新しい冷蔵庫を買うわよ」
「どうせ買うんやったら、うちで買うてくれませんか」と、寿男は思わずロ走ってしまった。
「えっ、お宅は引っ越し屋さんなのに、冷蔵庫も売ってるの?」と顧客は驚いて、「だったらお願いするわ」と、寿男は思いがけず冷蔵庫販売の注文を受けた。
注文を受けてから、寿男は電気街に出かけ適当な商品を購入して納めた。
そこで考えた。
「新居に引っ越したら、誰でも新しい家電を調達したくなるもんや。それなら、家電メーカーと契約してうちで販売させてもらおう。売れた分だけ、マージンがもらえるやろ」と。(「アート引越センター 全員野球の経営」より)