身元（製造元/親会社）を隠して成功している商品も世の中には少なくありません。
今回は、その事例と身元を隠した理由を紹介します。
化粧品業界では３位争いが熾烈になっています。国内市場が縮小するなか、資生堂と花王の2強は安泰だとして、他の化粧品メーカは3強の一角に食い込まないと生き残れないと判断しているためです。その中でもポーラとコーセーの顧客争奪戦が激しくなっているようです。両社とも連結売上高は約1,700億円と同水準となっています。株式市場では既にポーラが有利とみなしており、株価（時価総額）もポーラがコーセーを追い抜いたようです。
昨年（2011年）の国内化粧品出荷額は1兆4000億円であり、ピーク時（1997年）に比べ約8％減少しています。売上高の首位は資生堂で6,707億円、2位は花王(カネボウ化粧品を買収)で約5,335億円となっています。3位はコーセーで1,710億円、ポーラは1,652億円です。しかし、今期の予想ではポーラが2％の増加を見込んでいるのに対し、コーセーは1％の減少の見通しであり、場合によっては3位が逆転しそうです。
さて、このポーラ化粧品ですが、数年前までは、業績の低迷に苦しんでいます。訪問販売は限界に達していたからです。当時、ポーラ化粧品の経営企画室で問題解決に取り組んだ結果、化粧品の通信販売に進出して売上げをあげることが最有力の解決策として残りました。通信販売であれば、「無店舗販売のノウハウを活かせる」、「直接販売なので粗利益が大きい」、「大手の参入が少ない」などのメリットがあったからです。
ところが、営業本部から猛烈に反対意見が出されました。その理由は、次のとおりです。まず、通信販売の化粧品は、安い化粧品というイメージがあるので、通信販売事業に進出すると、自社ブランドイメージが損なわれ、既存の化粧品のブランド力も低下してしまう。また、既存の顧客が、既存の高級化粧品から安い通販化粧品に買い換えることになり、売上げも利益も、むしろ減少してしまう恐れがある。
「通販化粧品に進出した方がよい」という経営企画室の意見と「通販化粧品に進出しない方がよい」という営業本部の意見は明らかに矛盾しています。その矛盾の解消には、まず、条件の見直しが必要です。 反対意見の論理の前提としては、「同じ会社」で販売するということが仮定されていることに気が付きました。
しかし、ポーラグループ全体（連結決算）で業績が上がれば良いわけで、必ずしも、ポーラ本体で販売する必要はないのです。
そこで、「別会社を設立して、通信販売事業を行う」という、コロンブスの卵的な画期的解決策で、この対立を解消しました。
実際、株式会社ポーラでは、オルビス株式会社という子会社で「オルビス」というブランドの化粧品の通信販売を開始しました。しかし、広告宣伝でもポーラ社のグループということを伏せてマーケティングを行ったため、このブランドがポーラ社グループのものだと認知している人はわずかです。
実際、オルビスの化粧品のどこを見てもポーラという名前は出ていません。
この作戦は見事に成功し、今では、この通信販売部門がグループ全体の売上高の1割を占めるようになり、しかも、営業利益率は1割強とグループの平均利益率（8％）を上回っているようです。
ここまで成功すれば、もう、オルビスのことを隠しておく必要はありません。
実際、2006年には持株会社を設立しましたが、その名称を株式会社ポーラ・オルビスホールディングスとして、孝行娘のオルビスをお披露目しました。
この事例は、本業と離してブランドを育てることで成功した事例です。
通販化粧品の「オルビス」程は徹底してはいませんが、洗口液の「モンダミン」も成功例です。あの「お口クチュクチュ『モンダミン』」の「モンダミン」です。モンダミンの場合は、別会社を設立するほどは身元を隠してはいませんが、どこが製造元かは分からないようにマーケティングしています。実は、モンダミンの製造元はアース製薬株式会社なのです。「ごきぶりホイホイ」や「ダニアース」で有名なアース製薬です。「モンダミン」の身元を隠す理由も納得していただけたと思います。ちなみに「バスロマン」も製造元はアース製薬株式会社です。
