福島第一原発事故において政府・東京電力は何故に対応に失敗したのかが話題になっています。その中でも、今回の失敗が太平洋戦争において日本軍が犯した失敗に酷似しているという指摘も少なくありません。そこで今回は日本人に内在する失敗癖を説明します。
1.守りを軽視
今回の福島第一原発事故においては事前の津波対応策が不十分であったことは間違いありません。
日本人には昔から守りを軽視する傾向があります。例えば、一式陸上攻撃機は、機銃弾一発で火を噴くことが多くあり、「ワンショットライター」と揶揄されていました。なんと、燃料タンクに防弾設備が取り付けられていなかったそうです。また、ミッドウェー海戦では、全空母が簡単に大破・撃沈されましたが、これも①低い早期警戒能力(レーダー未活用)、②弱い対空火力(高角砲と高射撃装置が少ない)、③不十分な防御(薄い装甲、スプリンクラーもほとんど未装備)など、守りを軽視した結果です。
何故、守りを軽視しがちかというと、日本人には、「守りを考えることは、負けることを予測することであり、不吉で不謹慎だ」と考える悪い癖があるからだと思います。例えば、インパール作戦の指揮官であった牟田口中将は「作戦不成功の場合を考えるのは、作戦の成功について疑念を持つことと同じであるがゆえに必勝の信念と矛盾し、したがって部隊の士気に悪影響を及ぶす」として、守り(作戦が失敗した場合にどのようにして撤退するか)について事前検討がなされなかった。その結果として、3万人もの戦死者を出してしまいました。
守り・撤退を検討しないことにより、傷口を広げてしまい、再起不能になることは、日本の企業に多く見られる傾向です。特に、営業部門や商品開発部門が強力な企業は注意が必要です。
2.意思疎通を軽視
今回の福島第一原発事故においても、官邸と東電の意思疎通が不十分であり、これが惨禍を拡大したことは間違いありません。海水注入中断事件に至っては「言った言わない」で揉めているほどの体たらくです。
日本人には昔から意思疎通を軽視する傾向があります。そして玉虫色の曖昧さを好みます。
ミッドウェー海戦において、その目的は「ミッドウェーを攻略することによって米空母部隊の湧出を図り、これを捕捉撃滅しようとする」ことでしたが、この文章を読んでも目的は玉虫色で明確ではありません。連合艦隊司令長官は、「米空母部隊の捕捉撃滅が唯一の目的であり、ミッドウェー島の攻略は一手段に過ぎない」と考えていたようですが、現場の司令官などは、「ミッドウェーの攻略が当面の目的であり、米空母部隊の捕捉撃滅はそれにより生じる効果である」と認識していたようです。また、空母と戦艦の優先順位も事前に明確にされていなかったようです。このため、戦艦大和は空母を護衛することなく遥か後方で待機していたそうです。
これに対して、米国のニミッツ司令官は、「空母以外のものに攻撃を繰り返すな」と繰り返して注意したそうです。更にニミッツ司令官は、優先順位や作戦構想を部下と共有できるように日頃から意思疎通に努めていたそうです。
何故、意思疎通を軽視しがちかというと、日本は日本人だけの単一民族国家であることから、言葉にしないでも意思疎通が図れるはずだと誤解があるからだと思います。また、部下は上司の思いを正確に推測する義務があるといった風潮が蔓延しているからでしょう。その点、米国は、多民族国家であることから、言葉にして明確に意思疎通が図るのが常識になっています。そして、どう表現すれば、正確に意図が伝わるかに努力を惜しみません。
「空母以外のものに攻撃を繰り返すな」という表現は、「空母への攻撃が大切だ」とは異なり、その意図が明確です。「空母への攻撃が大切だ」というだけでは、戦艦への攻撃も大切かもしれず、もしかすると、戦艦への攻撃の方が空母より大切かもしれません。しかし、「空母以外のものに攻撃を繰り返すな」という表現では、空母が最も大切であることが明確であり、また部下からしても空母以外のものに攻撃しなくても免責されるので安心して空母への攻撃に集中できます。「選択と集中」という観点からも素晴らしいメッセージです。