多くの企業が決算期を迎える4月です。黒字企業では、節税対策という贅沢な問題に悩む季節です。今回は、ファイナンシャルプランナーでもある筆者が節税商品の解説をします。
節税対策というと保険セールスマンや税理士が強く勧めるのが、「損金型生命保険」です。
実は、この保険は正確には節税商品ではないのです。
「節税」とは、その年度で経費として納税額が少なくなり、翌年度以降にも税金がかかることのない対策のことを指します。一方、「納税の繰延べ」は、その年度で経費として納税額が少なくなりますが、翌年度以降に利益となり、納税額が多くなってしまう対策のことを指します。
損金型生命保険は、節税型商品ではなく、納税繰延型商品なのです。何故なら、損金型生命保険に加入すれば、払い込んだ保険料(の一部)は払い込んだ年度の経費になり、その年度の税金が少なくなります。しかし、将来に解約返戻金や満期返戻金を受け取ったときは、雑収入となり、その年度の税金が多くなってしまいます。法人税は約40%なので、例えば今年度に100万円が経費として認められれば、納税額が約40万円だけ少なくなりますが、10年後に解約返戻金として100万円を受け取れば、その年の納税額は約40万円だけ多くなります。
結局これって会社にとって得になるのでしょうか。
話を分かりやすくするために、今年の税引前利益が100万円で予定納税額が40万円で、保険料を納めれるだけの余裕資金として100万円が期末にあったとしましょう。
もし、(損金型生命保険に加入しないで)普通に納税すれば、手元に残る余裕資金は60万円(=100万円-40万円)となります。この60万円を10%で運用できれば、1年間で6万円の利益が生じます。その6万円に対して40%の税金を納めても3.6万円の税引後利益が残ります。期首の60万円と合わせれば、期末には63.6万円の余裕資金が残っている計算になります。これを10年繰り返すと10年後には約107万円になります。
一方、損金型生命保険に加入して100万円の保険料を払い込めば、(全額経費と認められたとして)手元に残る余裕資金は0万円となります。もし、翌年に100万円の解約返戻金を受け取ったときは、雑収入となり、その100万円の利益に対して40万円の税金を納める結果、期末には60万円の余裕資金が残っている計算になります。普通に納税した場合に比べると、3.6万円(=63.6万円-60万円)だけ損をしている計算になります。
しかも、損金型生命保険を短期で解約した場合、払込保険料は満額では返ってきません。保険によって解約返戻率は違いますが1年後の解約ではせいぜい70%ほどではないでしょうか。となると、手元に残る余裕資金は42万円(=70万円-70万円×0.4)となり、普通に納税した場合と比べた損失額は、21.6万円にもなります。
10年後に解約した場合でも100%戻る保険はほとんどありませんが、仮に100%戻ったとして、普通に納税した場合と比べた損失額は、47万円(=107万円-60万円)にもなります。
保険会社のセールストークでは、「解約返戻金を退職金の支払に当てれば、解約返戻金の雑収入が退職金の経費と相殺されるので、税金がかかりませんよ!」との説明がされます。
確かに、10年後に100万円を受け取って、それを丸々退職金に当てれば、その年に納税額が増えることはありません。そして、手元には何も残りません。
一方、普通に納税した場合はどうなるでしょう。10年後には約107万円の余裕資金が溜まっているはずです。したがって、100万円を退職金に当てても、7万円の現金が残ります。しかも、雑収入はないので退職金として支払った100万円分が全額経費となり、その年の納税額は40万円も少なくなります。これを考慮すると、普通に納税した方が47万円も得する計算になります。
しかも、実は損金型生命保険のほとんどは、払い込んだ保険料の半分しか経費として認められなくなってしまいました。したがって、納税の繰延べ効果も半減してしまっています。
というわけで、私は損金型生命保険は原則お勧めしておりません。どうしても、「納税の繰延べ」をしたいという方には、私は、経営セーフティ共済をお勧めしています。
経営セーフティ共済(正式名称:「中小企業倒産防止共済」)は、国が全額出資している中小企業基盤整備機構が提供している商品だけに非常に「お買い得」です。
まず、掛金(保険料)は、全額が損金となります。更に40ヶ月経てば解約返戻率が100%となります。しかも、払い込んだ掛金の9割ほどを無担保・無保証人で超低利(現在0.9%)で借りることができます。
また、取引先の倒産などで売掛金の回収が困難となった場合には、掛金総額の10倍の金額を無利子で借りることができます。
なお、地域によっては、経営セーフティ共済に加入した場合、補助金を受けることができることもあります。例えば、ジョイントネットワークのある文京区では、加入した月から6ヶ月間、掛金の半額(上限月額2万円)の補助金を受け取ることができます。実は、東京都では、平成22年12月までに経営セーフティ共済に加入すると、6か月分の掛金の75%の補助金を受けることができました。
もっと早く教えてくれれば良かったのにというお叱りを受けそうで怖いですが、これからは、もっと御得情報をタイムリーにお届けしますのでお許し下さい。