今回は、私のところに実際に寄せられた質問をもとにして原稿を書かせていただきます。
Q.
私は中堅アパレルメーカーで人事部長をやっております。
社員の1人Aさんには、妻子がいるのですが、半年ほど前から部下の女性と不倫しているという目撃情報が私のところに入り、他の社員の間でも噂が広がりはじめました。そこで私は、「不倫は社内の風紀を乱す行為だから」といって両人を懲戒解雇としました。
すると本人たちは、不倫そのものを否定し、もし仮に事実だったとしても「恋愛は自由」であるし、会社には関係ないということで解雇の撤回を要求してきました。今回の場合の対応方法についてアドバイスをいただければと思います。
A.
原則として会社は社員の私生活上の行為を懲戒処分としてはなりません。ただし状況によって不倫が制裁の対象になることもあります。
不倫であっても、それが私生活上の問題にとどまるかぎり、会社側がそれを禁止することはできません。
しかし、そのような男女関係が公になることで業務に支障をきたしたり、得意先のひんしゅくを買ったりするなど、対外的にも悪影響を及ぼすような場合は、解雇その他の制裁の対象になりえます。
すなわち、Aさんの立場、仕事内容、会社の業種、取引先との関係等総合的に判断されることになると思われます。Aさんの不倫によって、会社側が具体的な損失を受けたのではなければ、懲戒解雇というのは行き過ぎだと思われます。
具体的な例としては・・・観光バス会社で、バス運転手が女子バスガイドと不倫関係を結び、妊娠中絶をさせたことが解雇事由の「著しく風紀・秩序を乱して会社の体面を汚し、損害を与えたとき」に該当するとし、解雇を有効とした判例(長野電鉄事件)
一方、同様の事件でも、妻子あるバス運転手とバスガイドとの情交関係は、道義的には非難される行為ではあるが、会社業務が妨害されるほどの風紀紊乱とはみられない以上、解雇に値するほどではないとし、解雇が無効とされた判例(国際興業事件)などがあります。
今回の場合は、懲戒解雇は行き過ぎと判断できるので、やむを得ませんが復帰させるしかありません。
ただし、このようなケースの場合、Aさんたちも復帰といわれても戻りづらいでしょうから解雇予告手当を払い、さらに解決金をいくらか払って辞めてもらうことで話をまとめるのがよろしいかと思います。
最後にこちらの会社では就業規則がなかったのですが、就業規則をきちんと整備し、懲戒処分についてはかなり細かく定めておくと、労働者への抑止効果がありますし、裁判になったとしても有利になる可能性があることを覚えておいてください。