(経営承継関連税制の抜本拡充 ~その2~)
前回、経営承継税制の抜本拡充として3つの柱として①民法の遺留分に関する特例、②金融支援、③相続税の課税の特例のうち、①について説明しましたが、今回は②と③について説明したいと思います。
【金融支援】
前回の話は中小企業が経営承継を潤滑に行うために、会社の株式を生前贈与するという話でした。しかし、もし、生前贈与をする前に父親である社長が亡くなってしまい、会社の株や事業用資産が何人かの相続人に分散されてしまった場合、どうすればよいか、という問題が残ります。
この場合、後継者は経営の安定を図るために株式等を取得しておきたいところですが、それには、まとまった資金が必要となります。このまとまった資金を用意するために、「後継者が事業を継続させていくための株式等の取得をする場合」ついては、中小企業金融公庫と国民生活金融公庫からそれぞれ7億2000万円、7200万円まで融資を受けることができます。しかも、貸付利率は特別利率が適用され、平成20年3月時点では1.75%と優遇されています。この制度を使うことにより、生前贈与が行われていなかった場合においても事業承継を潤滑に行うことができるようになります。
【相続税の課税の特例】
さて、相続が行われた場合、上記の金融支援により株式等の取得は可能となりましたが、もう1つ事業承継の壁となっているものがあります。それが相続税です。
自社株や事業用資産の相続を受けたとしても現金での相続がなければ相続税は払えず、物納をするしかありません。これでは後継者が事業を継続していくのが困難になってしまいます。 そこで、今回、「納税猶予制度」が創設されました。これは、一言でいえば、「相続により取得した議決権株式にかかる課税価額の80%に対応する部分の相続税額が納税猶予」されるというものです。ただし、発行済議決権株式の3分の2に達するまでの部分に限ります。
この納税猶予を受けるためには、後継者は申告期限(相続発生の10ヵ月後)までに経済産業大臣にその旨を申請し「認定」を受けなければなりません。次に、ここから5年間、経済産業大臣によるチェックが毎年行われます。そのチェックは、①代表者であること、②雇用の8割以上を維持すること、③相続した対象株式を保有し続けること です。これが、後継者に課せられた要件です。
なお、この制度が適用されるにあたっての「被相続人の要件」は、①会社の代表者であったこと、②発行済株式総数の50%超の株式を同族関係者とともに保有し、かつ、その中での筆頭株主(経営承継相続人を除く。)であることの2点です。
この猶予制度には5年間の要件はありますが、5年を経過すれば代表者を辞めてもいいですし、雇用の8割を切っても構いません。ただし、相続した自社株式に関しては保有し続けなければなりません。もし、5年を経過したあとに自社株を譲渡した場合には、その時点で現金が手に入りますので、その譲渡した株式の割合に応じて「納税猶予額+利子」を納めることになります。これが納税免除ではなく納税猶予であるゆえんです。
しかし、後継者が株式を保有したまま死亡した場合には猶予税額は免除されます。