今年度の税制改正の目玉の一つは「経営承継税制の抜本拡充」といわれています。これは、地域経済を支える中核的な存在である中小企業が親から子への「経営承継」問題でつまずくケースが近年増えていることに対して、経済産業省が相続時の遺産分割や資金需要、税負担の問題などに対応するため、総合的な支援策を講じたものです。それが今国会に提出された「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律案」(中小企業経営承継円滑化法)です。
この法案の柱は、①民法の遺留分に関する特例、②金融支援、③相続税の課税の特例、の3つです。
今回はこれらのうち①民法の遺留分に関する特例について説明したいと思います。
【民法の遺留分に関する特例】
まず、遺留分とは民法が相続人に保証している一定割合の財産のことです。この遺留分があることにより、たとえば、被相続人(亡くなられる人)が遺言状に「友人のAさんに全財産を相続させる。」と書いていたとしても、家族には遺留分(たとえば、妻と子供1人が相続人である場合には妻と子供にそれぞれ全財産の4分の1。)が保証されているわけです。この場合、妻と子供は遺留分減殺請求を行うことにより、たとえ遺言状に「Aさんに全財産を相続させる。」とかいてあっても、全財産の4分の1を受け取ることができ、家族の生活が保障されるわけです。
しかしこれが反対に、事業承継を行う場合の壁となっていました。長男に会社を継がせるために父親が所有する会社の全株を長男に相続させたくても、会社の経営にはまったく無関係である次男や長女にも遺留分を受け取る権利があるため、他に財産がない場合株式を分散せざるを得ないためです。
今回、民法の遺留分に関する特例が設けられ、「贈与株式等を遺留分算定基礎財産から除外できる」ことになりました。遺留分の計算は生前に相続人に贈与した財産も含めて計算を行うのですが、この特例により、事業を承継する長男にあらかじめ会社の株式を贈与して、遺留分の計算から除外することができるようになりました。また、株の評価額というのは会社が利益を出していけば価値は上がっていきますが、今回の特例で「贈与株式等の評価額を予め固定化できる」ことになりました。
ただし、この特例が適用されるためには、相続人の全員が「遺留分算定基礎財産から、生前に贈与された自社株式等を除外する」ということについて合意し、それを文章にまとめ、経済産業大臣の確認を取り、家庭裁判所の許可を得なければなりません。