企業が売上の増加、即ち成長を望むのは自然なことです。
ただし、無闇に売上の増加をめざすと、返って利益を損ねることにもなりかねません。
また、売上の増加というと新規顧客開拓というようにワンパターン化している経営者も多いと思います。ワンパターンしてしまった売上の増加策は段々と大変になってくるものです。そして最後は「やる気と根性」といった精神論に頼らざるを得ません。
しかし、経営者としては、「楽して利益を上げる」努力をするべきです。その方が社員も幸せになります。
まず、売上を伸ばす方法にはどのような方法があるのでしょうか。
基本的には、4つの方法があります。4つの方法は、市場(顧客)と製品という切り口から、それが既存のものか新しいものかで、決まります。
具体的には次の4つの方法(戦略)です。
A:「市場浸透戦略(又は市場深耕戦略)」
. 既存の顧客(もしくは、既存の市場)に対して既存の商品・サービスを提供する。
B:「新製品開発戦略」
既存の顧客(もしくは、既存の市場)に対して新たな商品・サービスを提供する。
C:「市場開拓戦略(又は新市場開拓戦略」
新たな顧客(もしくは、新たな市場)に対して既存の商品・サービスを提供する。
D:「多角化戦略」
新たな顧客(もしくは、新たな市場)に対して新たな商品・サービスを提供する。
このうち、今回は、市場浸透戦略を取り上げます。
市場浸透戦略とは、現在の市場でいかにシェアを上げていくかという戦略で、既存顧客への販売量増加が中心となります。現在の顧客が製品を購入する頻度及び量を増大することにより売上を上げようという戦略です。
顧客の属性が同じようならば、潜在顧客の掘り起こしも市場浸透戦略に位置付けられます。(顧客の属性がかなり異なる場合は、市場開拓戦略と位置付けられます。)
具体的には、販売促進や顧客サービスの充実、商品ラインの充実などが中心となります。
こうした意味で重要なのは、顧客満足戦略です。顧客満足度が高まれば、その顧客の購入量も増加しますし、その顧客が他のお客を紹介してくれるようになります。
ライバル企業のお客を奪うことも有効な場合もあります。何故ならば、ライバル企業のお客であれば、少なくとも(同じような)商品・サービスは購入(利用)したことがあるわけですから、わざわざ商品・サービスについてくどくどと説明して、説得する手間が省けます。また、ライバル企業のお客を奪うことになれば、自社のシェアが大きくなるだけでなく、相手のシェアが落ちるので、シェアの拡大という意味ではダブルで効果が得られます。
例えば、テレビ局などでは有効な方法です。テレビ局にとって営業とは企業にテレビCMを打ってもらうこと、つまりスポンサーを見つけることです。しかし、テレビCMは安いものではないし、その便益も目に見えるものではありません。したがって、今までテレビCMをやったことのない企業にテレビCMを売り込むというのは大変なことなのです。その点、同じ地域の他局(業界では「裏局」と呼ぶそうです)でテレビCMをうっている企業であれば、いちいちテレビCMの費用・便益などについて説得する必要はないので大変楽です。また、テレビ局においては、同じ地域のテレビ局におけるシェアがとても大切です。そういう観点からも、他局のスポンサーを奪うことはとても有効な営業手法といえます。
一方、非使用者の説得が有効な場合もあります。確かに、既に利用している顧客は、説得する必要がないという利点はあります。しかし、既に利用している顧客に多くのメーカーが群がった場合、過当な価格競争や過剰な品質競争に陥ってしまい、売上が上がっても利益が下がるといったことになりかねません。そうしたケースの場合は、むしろ全く新しいお客を開拓して、価格や品質などの面で主導権を握った有利な商談を行う方が良いでしょう。
一般に市場浸透戦略は事業リスクが最も低いといわれています。したがって、既存の市場が拡大している場合や自社の製品に十分な競争力があってシェアを上げていく余地がある場合は市場浸透戦略は有力な選択肢といえましょう。しかし、既存の市場が縮小傾向である場合や、自社のシェアが低下しているような場合は、市場浸透戦略以外の戦略を検討する必要があるでしょう。