前回は1台当たりの変動費の簡単な求め方をお伝えしました。この変動費を上回る価格なら、これまでより安い価格であっても追加的に仕事を引き受けた方がよいとアドバイスしました。
ただし、これはあくまで追加的な仕事に対するものであって、全体的な値引きでないことに注意してください。これまでの仕事の価格は据え置きだという前提です。
前回、8月には32台までは1台平均100万円で販売し、33台目を80万円で販売したとすると、売上高は3,280万円(3,200万円+80万円)、総費用は2,950万円(2,900万円+50万円)なので、利益は330万円となり、7月より30万円増加すると説明しました。
これを誤って、全面的に値下げをして、33台全て80万円で販売したとしましょう。その結果は、売上高は2,640万円(80万円×33台)、総費用は2,950万円(2,900万円+50万円)なので、損益は310万円の赤字となってしまいます。これは大失敗です。
したがって、この変動費を上回る価格なら、これまでより安い価格であっても追加的に仕事を引き受けても良いといっても、他の仕事の価格に影響を及ぼさないことが大前提なのです。
「高く買う人には高い価格で売る、安くしか買わない人には安い価格で売る」という方法を経営学では差別価格戦略といいます。
しかし、「そんな都合のよいことはできるわけがない」と思っている人が多いのではないでしょうか。実際、そんな例があるでしょうか。実は、結構あるのです。
例えば、航空運賃もそうです。羽田(東京)から那覇(沖縄)まで、正規料金は36,400円ですが、旅割なら時期により14,800円のこともあります。さらにマイレージを使えば、ただ同然で利用できます。急な仕事で沖縄に行くなら高くても正規料金を払うでしょう。暇な人が旅行で沖縄に行くなら旅割で十分でしょう。また、航空会社の場合、飛行機を飛ばすには莫大な固定費がかかりますが、乗客一人当たりの変動費は微々たるものです。だからこそ、幅広い価格帯での差別価格戦略がとれるのです。
似たようなものに旅館・ホテルの料金があります。シーズンと閑散期、休前日と平日とで宿泊料金に大きな差を設けているところがほとんどです。土日しか休めないサラリーマンは多少高くても土日に宿泊します。また、お盆休みやゴールデンウィークも高いと知りつつ宿泊するのです。また、旅館・ホテルの場合も、宿泊客一人当たりの変動費はたいしたことはありません。特に最近流行のバイキング形式の食事であれば、変動費はほんのわずかです。幅広いレンジでの差別価格戦略がとれるのです。
さて、貴方の会社で差別価格戦略はとれないでしょうか。検討してみてください。変動費が比較的少なくて差別価格戦略も可能であれば、大幅な利益増加が可能となるはずです。