今回は「経営/人生に役立つ映画」の第15回で、「素晴らしき哉、人生！」」を紹介します。
「素晴らしき哉、人生！」は、1946年公開の名匠フランク・キャプラ監督がアメリカの良心を描いたヒューマンドラマです。5月号で紹介した「素晴らしきかな、人生！」は、この映画をリスペクトして制作されたものです。
は定番となっており、アメリカで最も親しまれた作品としてよく知られる映画です。あのスティーブン・スピルバーグ監督も一番感銘を受けた映画として高く評価しています。
（あらすじ）
ジェームズ・ステュアート演じるジョージ・ベイリーは、自分の夢を追って海外に渡航する日に父親が急死してしまいます。それに伴い、ベイリーは、自分の夢を諦めて、家業の建築貸付組合(B&L)を継いで田舎の小さな町で過ごすことになります。
幼馴染みのメアリーと結婚したベイリーは、豪勢な新婚旅行に出発しようとしますが、その日に世界大恐慌のため、ベイリーの会社にも取つけ騒ぎが起こります。ベイリーは旅費として持っていた5,000ドルで急場をしのぎます。
ある年のクリスマス、叔父が会社資金8,000ドルを預金する途中で紛失してしまいます。その資金が無いと倒産してしまうと絶望したベイリーは、雪が降る町をさ迷った挙句、橋の上から身投げ自殺しようとするのでした。丁度、その時、ベイリーの目の前で一人の老人が川に身を投げ、ベイリーは老人に助けを求められました。この老人こそ、ベイリーを助けるために神から派遣された天使でした。
このように、ベイリーは何度となく会社の経営危機に直面しますが、その度に、危機を乗り越えます。その“チカラ”は何だったのでしょうか。
《取付騒ぎを超えるチカラ》
新婚旅行予定日に起こった取り付け騒ぎの際、「銀行が7日後に再開するので、引出額は、再開まで必要な金だけにして下さい」とベイリーは預金者にお願いしました。
普通なら、取付騒ぎが起きているのですから、7日後に銀行が再開するとのベイリーの言葉を誰も信じないでしょう。仮に、再開を信じても、正直に必要額だけ引き出して、ベイリーに協力する人など皆無でしょう。5,000ドルでは焼け石に水のはずです。
ところが、ベイリーは、自分のことをよりも周りの人のことを優先して生きてきました。そして、困っている人がいると放っていられず、手を差し伸べてきました。特に顧客となる住宅ローン希望者には出来るだけのことをしてきました。
そんなベイリーですから、預金者にベイリーの言葉を疑う人はおりません。また、嘘をついて現金を多く引き出す人もいませんでした。
これが、取付騒ぎを乗り越えた“チカラ”だったのです。
《大金紛失》
大金紛失だけでも大変ですが、ライバル企業に虚偽通報されたので、ベイリーには横領罪で逮捕される危険が迫っていました。ベイリーが絶望するのも仕方ありません。
大金紛失を知った妻のメアリーは窮状を知り合いに知らせると、町中で寄付運動が起こります。しかも、「ジョージのためなら」と理由も聞かず、寄付金が集まってきます。現代でいう“クラウドファンディング”です。大金が即座に集まったのも、これまでベイリーが、「貧しい人に住宅を」というビジョンを掲げて、世のため/人のためにと会社を誠実に経営してきたからです。これが、大金紛失騒ぎを乗り越えた“チカラ”だったのです。
《経営学的説明と人々の期待》
この映画は経営学的視点で説明すると、ベイリーは、ビジョンを明確に掲げ、顧客第一主義を徹底してきたことにより、数々の経営危機を乗り越えたということになります。
ただし、この映画はフィクション（虚構）ですから、この経営学的解釈がどれほどの意味を持つかは不明です。
一方、この映画がアメリカ映画協会（AFI）が選ぶ「感動の映画ベスト100」では1位にランクされたことは事実です。従って、ベイリーのような人物こそ理想的な経営者だと思われていることは間違いないことでしょう。
