米国では、筆記具のCrossやアウドア製品のL.L.Bean、ライターのZippoなど「永久保証」や「返品自由」の方針を貫いているブランドが多くあります。果たして、この方針で採算は取れているのでしょうか。この方針を経済学的に分析してみましょう。
1.クロスの筆記具
米国で最も長い歴史を誇る筆記具ブランドはクロスです。
クロスは私のお気に入りで、米国留学時代に何本もクロスの製品を購入しました。
シャープペンは特に愛用しており、使い過ぎで、芯が出にくくなっていたほどです。
ある日、手帳に差していたシャープペンを無理に引っ張ったため、クリップ部分が緩んでしまい、胸ポケットに入らなくなってしまいました。
検索したところ池袋東武百貨店内の伊東屋でクロスのシャープペンを扱っているということなので、修理の見積もりをお願いしました。
気に入っている品なので、修理代が不当に高くなければ、修理して使おうと思っていました。
ところが、店員からは「こちらのシャーペンは現在生産されていないので、お取り換えになるかもしれません。」とのコメント。
その店員は、「覚悟していたより高くつくかもしれないなあ~」と私の顔が曇ったのを見逃さず、こう言いました。
「クロスの商品は、永久保証なので、無料で修理または交換できます。」とのこと。
調べてみると、確かにこのクロスの筆記具は、その使用年数にかかわらず機構(メカニズム)上の故障に対する保証がついています。
この「機構上永久保証」により、クロス製品は通常の使用状況で使った限りは永遠に製品保証が約束されています。
因みに、保証修理の手続きの際に、領収書や保証書を要求されることもありませんでした。
2.学術的な分析
永久保証となると相当なコストがかかりますが、採算は取れているのでしょうか。
(1) 顧客満足によるブランド構築
マーケティング戦略としては顧客満足度の向上によるブランド力の強化という効果が期待できます。
実際、私は頼まれもしないのに、クロスの素晴らしさを何人もの友人・知人に吹聴しました。まさに口コミ効果が発揮されました。
(2) シグナル効果
クロスの品質が悪ければ、修理や交換に必要な費用が莫大になるわけですから、永久保証を履行すれば、会社は倒産してしまいます。逆に言えば、高品質である自信があるからこそ、永久保証を付けることが可能なわけなのです。
したがって、この保証制度には、「クロス製品の品質は間違いないですよ」というメッセージが込められています。つまり、この保証方針には高品質であるとのシグナル効果があるのです。
3.結果
この保証方針は成功したのでしょうか。クロスの経営陣でもない私に本当のことはわかりません。
しかし、この保証制度が1949年に開始されて現在に至るまで継続されている事実を踏まえると、十分に成功していると考えるのが妥当ではないでしょうか。