原材料価格の高騰や消費税の引上げなどが進む中、コストを自社の販売価格に転嫁することが各社においてなかなか進んでいない昨今。とても上手に値上げを実施した米国の事例を紹介しましょう。
1.映画館の支配人の課題
1960年代、米国シカゴでの話です。映画館の支配人であるデビッド·ウォーラーステインは、上司からポップコーンやソーダーの売上げを増やすように強く圧力をかけられていました。ポップコーンの売上増加の王道は、一人当たり二箱を購入させることでした。しかし、大食漢とみられるのを懸念してか、或いは、持ちにくいからか、一人で二箱を購入する人は僅かでした。そこで、ウォーラーステインが考案したのが、ラージサイズの追加です。従来のレギュラーサイズよりも大幅に容量を増やしながら、値上げ幅は控えめに設定しました。お客様から見れば、支払うお金は増えるけれど、それ以上に食べられるポップコーンが増えるので「お得感」を得ることができます。一方、映画館側からみれば、かなりの増益となります。というのは、ポップコーンの原材料費は非常に安いので、値上げ分はほぼ全て利益となるからです。
しかも、ラージサイズを注文したお客は喉が渇き、ソーダーも追加注文するようになりました。ソーダーの原価も低いので、利益は更に大きくなりました。さて、会社に大きな利益をもたらしたウォーラーステインは、その後、どうなったでしょう。
2.マクドナルドの取組み
デビッド•ウォーラーステインは、ラージサイズを考案した翌年、マクドナルドにスカウトされて、役員に就任しました。マクドナルドに入社したウォーラーステインは、ポテトフライにラージサイズを導入しました。ポテトフライもポップコーン同様に原価が安いので、レギュラーサイズとの差額は、ほぼ丸まる利益になります。追加注文されるコーラも利益率が高いので、更に増益となりました。
このラージサイズ作戦と成功をみた外食産業は、その後、争うようにラージサイズ作戦を展開しました。ポップコーンやフライドポテトだけでなく、ソ-ダーやコーラなどにもラージサイズが登場するようになりました。また、ラージサイズの上にスーパーラージサイズを提供する企業も出てきました。更に、ラージサイズのラージ化も過激化してきました。その結果、フライドポテトの場合、現在のスモールサイズは、1970年代のラージサイズの容量になってしまっています。また、ソーダの場合、今の子供サイズは、昔の最大サイズより容量が大きくなっているそうです。このスーパーサイズ作戦は企業としては大成功でした。しかし、成功しすぎて、一方で米国を肥満大国にしてしまいました。つまり、デビッド•ウォーラーステインこそ、米国を肥満大国させた犯人というわけです。なお、米国での肥満化の問題は深刻で、ニューヨークでは、レストランなどでの特大サイズの炭酸飲料の販売を規制したほどです。